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2019年7月3日 O2O/スマホ

岩田昭男のキャッシュレス最新状況(1)。信用スコアが大爆発を起こしている。日本は、いったいどこに行くんだ?

嫌われ者のYahoo!スコアがついに始動し、LINEまでスコア事業参入で日本は信用格差社会へ突入する勢い。日本も信用格差社会へ向かうのか?米中の導入事例でわかる危険度について記してみたい。


個人情報が900点満点の信用スコアに

日本の代表的ポータルサイトのヤフーは、「Yahoo!スコア」を7月1日からスタートさせる。

Yahoo!スコアは、Yahoo! JAPAN IDを持つ約4,800万の会員のビッグデータを分析し独自に算出した「信用スコア」を関心を示す企業に売り込み、ユーザーに特典や利便性を提供するという新規ビジネスだ。

ヤフーがこのビジネスを発表したのが昨年の10月で、それから9カ月余りにわたってパートナー企業との実証実験を重ね、今回のサービス開始に至った。

まず、新サービスの概要を簡単に見てみよう。Yahoo!スコアのもとになるデータはヤフー利用者の個人情報で、大きく以下の4つに分けられる。

1.本人確認
住所、氏名や電話番号、メールアドレスなど

2.信用行動
ヤフオクの取引実績、ショッピングでのレビュー回数などのほか、Yahoo! JAPANへの支払いの延滞や飲食店の予約キャンセルなど

3.消費行動
Yahoo! JAPANのEコマースやYahoo! ウォレットなどの利用金額

4.Yahoo! JAPANのサービス利用
Yahoo! JAPANが提供するサービスの利用頻度など

これらの個人データが900点満点でスコア化され、ユーザーはデータ提供の見返りとして、ヤフーのサービスを利用する際にさまざまな特典が付与される。企業はYahoo! スコアを活用してそれまでできなかったサービスの展開が可能になる。

信用スコアを受け取る企業側のメリットは?

その具体的な内容は、実証実験を行ったパートナー企業4社のケースでいえば、次のようなものだ。

ランサーズ(株):フリーランスで働く優良ユーザーと仕事を発注する企業のマッチング
OpenStree(株):電動自転車のシェアサイクリングサービス「HELLO CYCLING」の特別料金プランを優良ユーザーに提供する
(株)TableCheck:予約を忘れそうなユーザーを選び出して、リマインド連絡を増やし、直前のキャンセルを防止する
(株)クラウドワークス:優良ユーザーに優先的に仕事をオファー

優良ユーザーとは、Yahoo!スコア(個人情報)を提供した高スコアのヤフーの利用者のことだ。点数が高ければ高いほど、割引率があがったり、出会いのチャンスが増えたりする。

パートナー企業が集まらない?

しかし、昨年10月の時点では、パートナー企業は12社1団体もあったのに、実際に実証実験を行ったのは4社だけであった。これではいかにもさびしい。

当初名を連ねていたアスクルやコスモ石油マーケティングといったより知名度の高い企業がそろって敬遠した理由は何なのか。ヤフーでは、新たなパートナー企業の募集を始めているが、これからどれくらいの企業が参加するのか不安視する声も多く、前途多難を思わせる船出となった。

クレジットカードが信用スコアの源

以下では、Yahoo!スコアの課題と可能性を考えるが、その前に、そもそも信用スコアとは何なのかを説明しておこう。

信用スコアの原点はクレジットカードにある。私たちがクレジットカードの会員申し込みを行うと、カード会社は「Capacity(資力)」「Character(性格)」「Capital(資産)」の3Cをもとに審査し、評価、判断を行う。

無事、審査を通ってクレジットカードを利用し始めると、さまざまな個人情報がカード会社に蓄積されていく。氏名、生年月日、住所、電話番号、配偶者、扶養家族などの基本情報に加えて、居住形態、資産や職種、勤務先、勤続年数、役職などの返済能力に関する情報、クレジットの利用履歴や返済実績(信用履歴=クレジットヒストリー)など多岐にわたる。

これをクレジットカード業界では個人信用情報といい、それをカード会社は、整理分類して、審査に役立てている。

アメリカでは1950〜60年代にかけてクレジットカードが本格的に普及していくが、90年代になると、コンピュータと金融工学を駆使したフェア・アイザック・アンド・カンパニー(現FICO:Fair Isaac Corporation)という会社が完成度の高いクレジットスコアを作った。

現在、FICO社は、大手信用情報機関3社(エキファックス、エクスペリアン、トランスユニオン)が集めた情報をもとにクレジットスコア「FICO(ファイコ)スコア」を作成。これがアメリカを中心とした世界各国の金融機関や企業に利用されている。

国民を3つの層に階層化

このようにアメリカで導入されているクレジットスコアは、信用情報機関に集められたクレジットカードの情報をもとに算出される。

とくに重視されるのが、過去一定期間のカードの使用履歴や返済履歴、借入残高や新規借入の有無、クレジットカードの種類などだ。

これらがいくつかの項目ごとに点数化され、合計点数850点満点で、点数に応じて次の3つのランクに分けられる。

• 750点以上=プライム層(ハイクラスのカードを作成可能)
• 660〜749点=一般層(一般的なカードは作成可能)
• 660点未満=サブプライム層(信用力が劣り、カード作成に不利)

平均点は680〜700点といわれ、比較的高い水準を保っており、常識的なカード利用をしていれば、サブプライム層に入る危険性はそれほど高くはない。

サブプライム層になってしまう主な原因は、たび重なる返済の遅れやキャッシング支払いの滞納、さらに限度額ギリギリまでカードを使用するなど、クレジットカード利用における責任感に欠けるルーズな行動だ。

参考までに付け加えておくと、たとえば、利用額を限度額の20〜50%に抑えて毎月必ず使い続ける、カードの所持数は2〜3枚にして万遍なく使う、6カ月間は新しいカードをつくらないなど、細かな点に配慮してクレジットカードを使うとスコアが上がるといわれている。利用者自身の経済力と金銭管理能力の両方をバランスよくアピールするとよいようだ。

クレジットスコアが生む信用格差社会

アメリカの場合、クレジットスコアが企業間で自由に売買されている。金融機関であれば、購入したクレジットスコアを住宅ローンの審査などに使用し、業務の効率化を図っている。一般企業の場合は、DMを送付する際の基準に利用するといったことが考えられる。

このように、一般企業にとってはターゲティングできる“名簿”として利用価値が高い。その一方で、もともとは単に個人の金融情報を示すデータだったクレジットスコアが、いつの間にか個人の社会的な評価軸として機能するようになってしまっている。

就職や転居、結婚などにもこのクレジットスコアがかかわるようになり、点数が低いと、就職できなかったり、引っ越しでも不動産屋に拒否されたり、結婚にも差し障りが出るなど、いろいろな面で影響が出ている。

とくに移民社会のアメリカでは個人の信用を公正にはかる便利なモノサシとして欠かせないものになっている。しかし、スコアの良し悪しが日常生活に大きな影響を与えたり、国民の間の差別や格差を拡大させたりする負の側面があるのも否めず、使い方を間違えると、一国のみならず世界中の経済や社会を揺るがしかねない。

2008年に起きたリーマン・ショックの原因となったサブプライムローンは、クレジットスコアを利用して本来なら住宅ローンを受けられないサブプライム層にローンを組ませたために発生したものだった。

ゴマ信用は信用スコアの進化系

このアメリカのクレジットスコアをさらに“進化”させたのが、2010年以降に普及しだした中国の大手IT企業、アリババ・グループのゴマ信用だ。アリババはQRコード決済のアリペイで、最近は日本でもよく知られるようになっている。

アメリカのクレジットスコアは、ごく簡単にいってしまえば、クレジットカード・ユーザーの利用履歴を点数化し順位をつけ、それをいくつかの階層(ランク)に分けて経済的な信用の格付けを行ったものだ。
このクレジットスコアをもとに、金融機関はランクの高い人に対するローン金利を低くするなどのインセンティブを与える。つまり、ランクの高い人を優遇するわけである。社会的信用をはかるモノサシの側面があるとはいっても、クレジットカード情報が基本だ。

ゴマ信用はクレジットスコアの原理を取り入れたものだが、アリペイユーザーのクレジットカードの返済履歴やQRコード決済の買い物履歴だけではなく、個人の生活情報(暮らしぶり)がまるごとAI(人工知能)によって点数化される。その結果、人格や能力を含めてトータルで個人を格付けする基準、モノサシになっている。その点が、クレジットスコアとは根本的に異なる。

ゴマ信用では集めた個人情報を以下の5つの項目に分けて、それぞれ点数をつける。

1. 年齢、学歴、職歴など
2. 返済能力
3. 返済履歴情報
4. 人脈(リアルおよびSNSを使ったネット上の交友関係など)
5. 日常の行動や趣味趣向

その点数を合計して利用者一人ひとりの総合点を出す。それを、次の5段階にランク付けする。

1. 極めて優秀(700〜950)
2. 優秀(650〜699)
3. 良好(600〜649)
4. 普通(550〜599)
5. 劣る(350〜549)

点数は毎月更新され、利用者は自分の点数を確認することができる。

アリペイで吸い上げられる情報には、シェアリングエコノミーで自転車を借りたときに規約通り返却したか、SNSでどんなことを話しているかなども含まれる。

さらには罰金などの行政処分や裁判、犯罪履歴などの究極の個人情報まで、スコアリングの対象になる。

中国ユーザーは個人情報保護よりも特典を優先

中国で信用スコアが一種の社会インフラにまでなった理由としては、スマホのQRコード決済が爆発的に普及したこと、個人情報に対する考え方が欧米や日本とは違って利便性やインセンティブを優先する国民性などがあげられる。

そして、デポジット社会の不便を打ち消したいという、中国国民の庶民レベルのささやかな願いが背景にあるのではないかと私は考えている。

中国では、ホテルを予約したり、飛行機や鉄道のチケットを買う際に、デポジット(保証金)を要求される場合が多い。ゴマ信用のスコアが一定以上であれば、ローン金利が低くなり、限度額が上がることなどに加えて、デポジットの支払いが免除される。

それが中国の人たちにとって個人情報を提供するに十分な動機付けになったのではないだろうか。

Yahoo!スコアに拒否反応を示す日本ユーザー

では、Yahoo!スコアは、どうか。

Yahoo!スコアがモデルとするのはソフトバンクと関係の深い中国のゴマ信用だろうから、すでに紹介したメニューを見れば大体想像はつく。FICOスコアのようなレンディング(金の貸し借り)に限ったものでなく、かなり幅広く生活全般を網羅するものになりそうだ。

こうしたスコアが今の私たちに果たして必要なのだろうか。ゴマ信用のように多くのユーザーに受け入れられるようになるのだろうか。

結論から先に行ってしまえば、現時点では、ゴマ信用のようにポピュラーなサービスとして認知されるには、かなり高いハードルが待ち構えているといわざるをえない。
まず1つ目は、ゴマ信用のように「デポジットが不要になる」といったユーザーにとってのメリットが明確になっていないことだ。

2つ目は、個人情報の保護という面で懸念があることで、これが最も重要な課題であり、高いハードルであるともいえる。

ヤフーは、パートナー企業へのYahoo!スコアの提供は、提供に同意したユーザーのみが対象になり、Yahoo!スコアの作成そのものを拒否することもできる、としている。また、スコアが低いからといってデメリットが生じるものではないことも強調している。

しかし、日本人にとって信用スコアはいわば未知の体験であり、不安も大きい。そのため抵抗感をおぼえ、頭から拒否反応を示す人も多い。

ネット上で相次ぐYahoo!スコアへの批判

すでにネット上では、Yahoo!IDの初期設定でYahoo!スコアの作成に同意する状態になっていることに対する批判の声があがっている。

また、「自分のスコアが確認できない」ことを不安視する声も多い(ただし、私は点数を個人にオープンにするのはやめたほうがいいと考えている。信用スコアの点数を上げることがあらゆることに優先するという異常な社会になってしまうおそれがあるからだ)。

それはともかくとして、Yahoo!スコアに対して少なからぬユーザーが、疑問や不信感を抱いていることはたしかだ。

そのことについて、ヤフー側も神経質になっており、担当者に取材すると、「一方的に、突出した部分だけ取り上げていろいろいうのはフェアではない。指摘されるような面もあるかもしれないが、プライバシーには十分配慮しているし、たとえばヤフーの検索履歴はスコアには入らない。パートナー企業が提供するさまざまな利便性にもっと目を向けてほしい」という声が返ってきた。

ユーザーにメリットはあるのか?

しかし、Yahoo!スコアの現在のメニューを見た限りでは、残念ながらそれほど魅力的なものはない。ヤフーにしても「いまはまだ決定打となるようなサービスを提供できていないけれども、なんとかこれだといえるようなサービスを早く開発していきたい」というのが正直なところだろう。

したがって、まずはとにかく消費者にアピールできる態勢を整えてほしいというのが私の偽らざる心境だ。いまのままでははたしてこの日本社会で事業として存在する意義があるのか、何のためにこの事業をやるのかが見えてこない。

さらにいえば、前述したリーマンショックにまでさかのぼって考える必要があるということだ。リーマンショックは、住宅バブルに乗じて貸付先を強引にサブプライム層まで広げた。それが取り返しのつかない破綻を引き起こした。

つまり、信用スコアは使い方を一歩間違えると、世界を破滅に追い込みかねない。

人間に点数をつけられるのか?

Yahoo!スコアはいまは得られる情報が限られているにせよ、生活のほぼあらゆる分野がマーケティングの対象になる。深刻なトラブルや問題が起きれば、それだけ影響が大きいことになる。

利用者の安全性を担保するためには、企業から独立した第三者委員会をつくって管理するなり、公的機関による何らかの規制が必要になるだろう。

こんなふうに考えてくると、Yahoo!スコアのような試みは、時期尚早といえるのではないか。私たち人間は、こうした試みをコントロールできるほど成熟していない。リスクの多すぎる試みであり、少なくとも、破滅的な打撃を受けるのを未然に防ぐためのバックアップ体制やセキュリティ対策が構築できるまで待つべきではないだろうか。

そもそも一人ひとりの人間に点数をつけること自体が傲慢なのだ。しかも、その点数たるやヤフーのなかだけものだ。

おそらく、ヤフーは、ゴマ信用という成功モデルをイメージしており、それなりの勝算があるのかもしれない。しかし、たとえそうだとしても冒険が過ぎるし、問題が多すぎる。

信用スコアが、個人の属性に関する情報と金融の返済履歴などに加えて、趣味嗜好や思想・信条、素行といった個人の生活全般にまで範囲がおよび、目的がレンディング、つまり金貸しから大きく逸脱し、国民を格付けして格差をさらに広げる――。そんなディストピアを招かないとも限らない。

>>次回、岩田昭男のキャッシュレス最新状況(2)「コード決済は電子マネーの敵じゃない?」(2019年7月4日配信予定)

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