ジョブズと禅
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アップルの成功には禅が大きく貢献した
「スイカが世界を制覇する」(朝日新書)を上梓したばかりだが、その中で書ききれなかったことがあったので補填しておく。その1つがアップルと禅の関係である。
より正確に言うと創業者のスティーブ・ジョブズと禅との関係である。ジョブズは暇をみては座禅を組んで瞑想にふけったと言われる。また休暇には必ず京都に赴き禅寺で足を組んだ。アップルの成功はこのジョブズのインスピレーションが大きく貢献しており、その背景には常に禅の教えがあった。
また、Appleの製品を日本人が特に愛するのも、そこに禅の思想があり、シンプリシティなどの東洋の英知が詰まっていると感じられたからだ。
最近見られるアップル社の「スイカファースト」方針やソフトバンクの大規模ファンドへの出資などの「日本傾斜」とみられる動きもそれに関連することだろう。
そして、この動きは業績が不安定なアップルにとっては原点回帰を目指すものと見ることもできる。大いなる母(日本)のもとに帰り、英気を養い次のステップを目指す戦術ということかもしれない。
そうした背景もあり、今回は、ジョブズの経営哲学における禅の影響を彼の言葉の中から探ってみようと思う。
ジョブズは禅にのめりこんでいった
禅の考え方はジョブズの語録の至るところに出ている。よく知られた言葉は、新商品開発のためのコツについてのものである。ジョブズは新商品の開発では独壇場だった。「鏡をじっと見つめていると、正しいビジョンが見えてくる。自分の中にあるものを取り出せばいいんだ。他人の意見は役に立たない」と言い切っている。
マーケティング担当役員のマイク・マレーは言う。
「ジョブズは、毎朝鏡に映った自分の顔を見て次に出す予定の新製品のデザインや機能を考えていた」といっており、この行動は生前からかなりの人に知られていたようだ。
原型になるデザインや機能はいつもジョブズ自身が思いつくことが多かった。1人になって鏡の前に立って意識を集中させているときに浮かぶ。
ジョブズが作るものはいつもシンプルで無駄のないものだった。マーケティングの専門家たちが集まってプランを作ろうとしたが、ジョブズはそれを拒否して、1人で考え続けた。
ジョブズの師匠はサンフランシスコ在住の曹洞宗の僧侶
アップルにとってはもっとも大切なこのインスピレーションだった。それをジョブスは禅の教えから学んだのだ。彼の禅の師匠である鈴木俊隆氏(サンフランシスコの禅道場の先生・曹洞宗の僧侶)は、座禅を組みに来た弟子たちににいつもこう言っていた。「何かをする前にすでに答えはあなたの内にある。それがあなたの修行であり座禅なのです」と。
市場調査によって過去のデータから作られる製品は十分ではない。これまでにないものを作るには自分の直感に頼るしかない、それは集中力で獲得するしかないとジョブスは信じていた。だから、専門家たちとの会議を避けて、鏡の前に立ち1人自分の世界に没入して答えを得ていたのだ。
また鈴木氏は次のようにも述べている
「初心者の心には多くの可能性があります。しかし専門家と言われる人の心にはそれはほとんどありません」
なかなかに厳しい言葉だったが、これは禅の大前提となる教えであった。
初心者ほど新しい発想を得ることができて、革新的なもの作れる。専門家たちは前例に振り回されて何も作れない。だから、ジョブズは終生初心者であろうと努めた。
何故か、禅が大好きなシリコンバレーの経営者たち
禅はもともと中国・日本で発展した宗教であったが、今では欧米での方がより盛んにみえる。この記事は、それを逆輸入して学び直そうという目論見であるが、日本人なのに禅など知らない人たちが増えたために、米国に教えてもらわねばならなくなったとは、何とも皮肉な話だ。しかし、これも時代の流れだろう。一方、禅への関心はアップルだけでなくアマゾン、Googleなどの著名なIT企業の経営者たちの間でも高く、シリコンバレーでは共通の理念となっている。
スマホの隆盛に伴い、そうしたIT企業がフィンティックを押し立てて決済分野やカードビジネスで、大挙して日本に上陸してきており、従来の日本企業との提携の機会も増えている。その際にシリコンバレーの企業の根本にある禅、米国風にアレンジされた禅の思想を理解していないと、提携が失敗する危険性もある。
彼らのいう禅は日本で流布する禅とは若干違うものだから、互いに誤解を生じる怖れがあるからだ。
そこで、ここからは、ジョブズの語録の中で禅の影響が如実なものを取り上げて、彼のビジネスとどう関わっているのかを考えてみよう。
まずシンプリシティーである。複雑なものをより簡単にわかりやすくするのが、IT産業のセオリーだが、これはまた禅の心得でもある。禅では複雑なものよりシンプルなものをよしとする考え方がある。
シンプリシティ
ジョブズは、「シンプルが私のモットーだ。それは複雑より難しい。考えを研ぎすますと言う大変な努力を要するからだ。だが、そうするだけの価値はある。そこに至りさえすれば、山をも動かせる」そしてジョブズはアップル社のモットーとしてシンプルを取り上げる。
「当社はこのようなアプローチとしています。とてもシンプルです。また近代美術館に収められてもおかしくない品質を目指します。会社の経営、製品の設計、広告と全てをシンプルにするのです。とてもシンプルに」
禅ではこの動きを次のように解説している
禅では座禅をするときに自分の息使いに集中しろと言われる。息だけに気をつけて座禅を組んでいるとおのずと無駄なものは省けていき、本質が見えてくるのだ。複雑になりがちなことがすっきりさせることで動き出す。シンプルは極めて禅的な精神状態と言える。
新製品開発について
IT産業に必要な事は、突飛な発想方法と抜きん出た考え方である。禅ではそうした能力は自分の外にあると言う考え方をして、それが解放されると自由になるという点を強調している。発想術としては、ぼんやりするとそこから自分でも驚くようなものが生まれると言ったりする。すでに述べたように、ジョブスは新製品を開発するときに、マーケティングの専門家や市場調査の結果はあまり気にしなかった。むしろ自分の中の素直な声を聞こうとした。そのため1人で鏡の前に立ってじっと顔を見つめていることがあった。この時ジョブスは自分の内心の声を聞こうとしていた。そこで新しい発想を得ていたのだ。
これを禅ではどういうか。
禅の修行は時間をかければたいてい上達する。しかし、それは本当の修行ではないと言う。習熟と同時に常に初心を保つことが大切と言われるのである。この2つを持って初めて修行したことになる。なぜなら、初心の中には無限の可能性が秘められておりそれを尊重するからだ。
もう一つの考え方もある。
大切な宝物はすでにあなたの手の中にある。他人を羨んで他人の言うことに従っていると最後に自分を見失ってしまうと禅では教えている。ジョブスはこういう教えもマスターしていたのかもしれない。
人心掌握術
激烈な性格が災いして、ジョブズは毀誉褒貶が激しかった。しかし挫折を経てアップルに移ってからはかなり抑制した経営に変わったと思われる。それまでは人に対して是々非々で厳しい姿勢を見せていたが、後にはある程度好きにさせ、見守る姿勢に転じたからだ。それが成功した秘密と言われる。
禅では、周りの人をコントロールしようと思って手綱を絞ってもうまくいかない。好きなようにさせるのが1番と言っている。羊や牛をコントロールするには、広々とした余裕がある草原に放すことだ。
人についてもそれはいえる。
好きなようにさせておいて、そして見守る。それが1番良いやり方なのだ。無視する事は良くない。それは1番良くないやり方だ。2番目によくないのはコントロールしようとすること。人について言えば1番良いのは、コントロールしようとしないで、ただ見守ることだ。
このようにジョブスの考えの根幹にはいつも禅の考えが、裏付けとしてあったように思われる。
今回はジョブスと禅について少しだけ考えてみたが、これだけでも大変に面白い。今後も不定期にこのコラムを掲載するので楽しみにしてほしい。
今後シリコンバレーの企業が押し寄せてきたときに、彼らの多くがジョブス流の考えをしているとみてよいだろう。
彼らと伍するためにもぜひ知っておきたい事柄である。
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