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2020年3月5日 ポイント・マイル

新型コロナが潰す日本のキャッシュレス~ポイント還元事業の成果が水の泡となる?/岩田昭男

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ポイント還元事業の加盟店は順調に増え、対象店の半数をカバーするまでになった。しかし、新型肺炎が日本のキャッシュレスを潰しかねない事態になっている。

ゴールが見えてきたポイント還元事業

キャッシュレス社会の実現のために政府が音頭とって始めたポイント還元事業。昨年10月1日にスタートして早くも折り返し地点をすぎて6ヶ月目に入っている(2020年6月30日で終わる予定)。

ところがこのポイント還元事業、対象となる中小の小売店にとっては、5%のポイント還元の原資はすべて国が負担するのでまったく損をしないのに、登録の手続きが複雑なので辞退する店が相次いだといわれる。
それで先が思いやられたわけだが、蓋を開けてみると、電子マネーやQRコードといったキャッシュレス決済がよく使われるようになり、加盟店の数も順調に増えている。2月21日現在で加盟店登録は約102万店で、約200万店と言われる対象店の半数をカバーしている。

順調に推移しているポイント還元事業

半数と言うのはかなりの数だ。

還元事業開始当初は60万店もなかったから、加盟店の目印の赤いステッカーを見ることが少なかったが、今では個人経営の居酒屋やレストランに行くと大体5%還元の赤いステッカーが貼ってあって色々な所でキャッシュレス還元を受けることができる。2〜3カ月前に比べてもぐんと増えた印象がある。

一方、対象決済金額は約3.7兆円、ポイント還元額は約1500億円とそれぞ伸びており、利用の多さを示している。
特に還元額に関しては、当初1日10億円の予算を計上していたそうだが、途中で足りなくなって追加している。現在は1日約16.7億円ほどだから、さらに追加が必要かもしれない。

※「キャッシュレス・消費者還元事業」ロゴマークは経済産業省の商標です。


北陸と山陰という加盟店分布にも特徴がみえる

加盟店の分布(人口一人当たりの加盟店数)を見てみると、一番多いのが、都道府県別に見ると、石川で、東京、京都、福井、鳥取の順である。さらにベストセブンに入る6位富山、7位島根も含めると東京、京都に北陸(石川、福井、富山)、山陰(鳥取、島根)が続くという分布になる。
石川がトップの理由は2015年の北陸新幹線開業以来続く金沢の観光ブームが影響している。

都道府県別 人口当たりの加盟店登録数 一部抜粋 (2020年3月1日時点)

都道府県 加盟店数(店舗/千人) 加盟店登録数 都道府県
石川県  12.1 13,837
東京都  11.9 164,765
京都府  10.7 27,786
福井県  10.5 8,125
鳥取県  10.1 5,673
富山県  9.7 10,190
島根県  9.7 6,597
長野県  9.6 19,891
大阪府  9.6  84,899
沖縄県  9.6 13,854
出所:経済産業省「登録加盟店の地域分布及び店舗の種類別の登録状況と利用状況等」

初めて東京と新幹線が結ばれた時に、金沢にやって来た東京人がみな電子マネーのSuicaで買い物しようとして殺到したため、現金でしか対応できなかった金沢の店はパニックに陥ったといわれる。その時、かなりの売り逃しをしたと言われる。それがトラウマになっているのだ。
そのためインフラ作りには真っ先に取り組むようにしているのではないか。

一方、山陰が出てくるのは、過疎地ではあるが、観光地でもあり、中小小売店が、キャッシュレスに拒否反応がなく、積極的に取り組もうとしているからだろう(もちろん今回財政的な持ち出しがないからでもあるが)。

利用者の動きも活発であり、店も増えてきているから、このままいけば政府もかなりの目的を達成できるのではないだろうか。

新型コロナウイルス肺炎が足を引っ張る

しかし、問題はこれからである。

というのも昨年暮れから中国で発生した新型コロナウイルス肺炎による思いがけない災禍でキャッシュレスにも影響があるからである。
中国・ 武漢で始まったこのコロナ感染は猛烈な勢いで世界に広がった。春節時(旧正月)には、中国人の入国を日本政府が制限しなかったばかりに、国内の感染も拡大していった。さらに大型クルーズ船でのウイルスの封じ込めに失敗したために、2月に入ると全国各地で毎日のように日本人感染者の報告が上がるようになった。

それを警戒した政府は、2月中旬にイベントや講演、集会などまとまった人が集まる機会を減らすように指導を始めた。大相撲やプロ野球、Jリーグなどが次々中止や延期、または無観客試合になっていった(私の講演会も中止になった)。

世界の株価が大幅に下落。パンデミック近づく

この新型コロナウイルスの感染の拡大は打撃になりそうである。なんといっても集会やイベントなど人の集まるところは感染率が高いので避けるようにといわれている。
繁華街やモールでの買い物は難しいし、ディズニーランドやUSJには行くなということである。

しかしこれらの場所は最もキャッシュレスが活躍するところなので、その影響は深刻で個人消費は2020年1月期から3月期は大きく落ち込むとみられている。
またこの感染は、日本、中国だけでなくイラン、イタリア、さらにはアメリカにも及んでおり、世界的なパンデミックの様相を呈している。そのために日米の株価も1日で1,000円または1,000ドル以上という歴史的下落を見せた。


このまま感染が広がれば、日本の景気は大きく後退していくだろう。
消費者は外出を拒んで家にこもりがちになり、コンビニにもいかなくなる。友達と居酒屋で楽しく酒を交わすこともできなくなるなど消費活動が縮小していくからだ。

ポイント還元事業の終了とオリンピックがぶつかる

さらに追い打ちをかけるのがキャッシュレス・ポイント還元事業が6月30日に終了するということ実だ。おそらくオリンピックは中止または延期になるだろうから誠にタイミングが悪い。
7月になると小規模な小売店でキャッシュレスで買い物しても5%のポイント還元も受けられなくなるし、コンビニでは2%の即割もなくなるからだ。キャッシュレス促進には逆風である。

こうなると、わざわざキャッシュレスで買い物をする必要はなくなるから、前のように「現金で」という人も増えるだろう。日本人にはやっぱり現金が合っているという考え方で、これまでのキャッシュレス促進の努力が水の泡と消えるかもしれない。

キャッシュレスを見直す動きもでてきそうだ

しかし、その一方でキャッシュレスへの見直しが始まるかもしれない。
電子マネーはカード(ないしスマホ)をレジリーダーにタッチするだけなので支払いが極めてスムーズだ。

特にJR東日本のSuicaなどの交通系電子マネーは、支払いスピードが0.2秒と電子マネー最速かつ、全国の鉄道やコンビニ・街の店舗で利用できるなど利用範囲が広い。
決済手段の1つとしてあまりに身近で、当たり前に使っているので気がつかなかったことだが、実はキャッシュレス決済の覇者はQRコードのPayPayではなく、今なおSuicaなのだ。

良い体験をした人が良き利用者になる

マーケティング業界では以前から「カスタマーエクスペリエンス」という言葉を使っている。
顧客の体験のことで、新しいツールを導入するときに、顧客に良い体験をさせることが普及のキーワードになるという考え方である。

例えばポイントで得をすると、次もその店を使おうとなる。つまり、ある店で良い体験をすると、継続してその店を使うようになるという傾向である。
その他にも電子マネーの優れた点は、決済のスピードが速い、残高や利用金額がすぐに見える。友達と割り勘がすぐにできるなどいろいろあるが、やはり決済のスピード、シンプルさが一番だろう。
お得を取る道具ではなく、ひとつの決済ツールとして秀でているのだ。そのことに気がつき始めたユーザーが増えたことにより、JR東日本のSuicaは、今や日本全国のものとなっている。

特にキャッシュレス・ポイント還元事業が始まってからしぶしぶSuicaを持たされた中高年ユーザーたちは、Suicaを初めて使ってみてそのスピードの速さに驚き、「素晴らしい。もっと早く知ってればよかった」と口を揃えて話す。

ポイント還元事業での体験が次の飛躍につながる

しかし、9カ月間にわたって培ったそうしたキャッシュレスの営みも元の木阿弥になるわけだから、何とも残念というほかない。

それでも政府はこれらの体験を何とか引き継ごうと、9月のマイナンバーカードで同じようなポイント還元での展開を図ろうとしている。

マイナンバーカードは単純な決済カードではなく、問題もいろいろ抱えているのであまり推奨しないが、ポイント還元の体験を引き継ぐという点だけで考えるなら利用価値はあるかもしれない。
いずれにしろ、一昨年から始まったキャッシュレス騒動だったが、最終コーナーで新型コロナという殺人ウイルスが割り込んできて、用意されたシナリオが大きく狂った。

それでも9カ月間で積み上げた(Suicaの決済スピードの速さといった体験)が今後もどこかで役立つのが重要な成果といえるだろう。


消費生活評論家/岩田 昭男

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