就職も結婚もできない「クレジットスコア超格差社会」に突入する日本
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アメリカでは、クレジットカードの購買履歴だけでなく、各種のローンや公共料金の支払いなどの顧客情報が大手信用情報機関に集められ、そのデータをもとに個人の信用偏差値=クレジットスコアが算出されています。
そして、就職や転居、結婚などにもこのスコアがかかわるようになり、スコアの善し悪しが生活に大きな影響を与えたり、格差を拡大させたりしています。
トランプの経済政策は保護主義だといわれていますが、アメリカの経済政策が日本に大きな影響を与えることは言うまでもありません。私はそう遠くない将来に、日本でもこのクレジットスコアと同様のシステムが取り入れられるのではないかと考えています。
あなたはプライム? それともサブプライム? スコアは人なり…
アメリカ人を格付けする「信用偏差値」
アメリカ大統領選は、ヒラリー・クリントンがドナルド・トランプに敗れるという衝撃的な結果となりました。この大番狂わせのもたらす影響については、今後、さまざまなことが論じられると思いますが、ここでは、アメリカの「クレジットスコア」についてお話しようと思います。
クレジットスコアといってもご存じない方が大半だと思いますが、実は、今回のアメリカ大統領選を見ていて、早い時期から私はクレジットスコアという言葉を思い浮かべました。
なぜなら、トランプ、クリントン、サンダースといった候補者たちが、クレジットスコアというものをそれぞれよく反映していたように思えたからです。
アメリカがクレジット社会であることはみなさんよくご存じだと思います。では、クレジットスコアとはどのようなものでしょうか、簡単に説明しましょう。
日本でクレジットカードをつくる際は、カード会社の審査を通らないといけません。クレジットカード会社は、カードを申し込んだ人の「Capacity:資力」「Character:性格」「Capital:資産」にそれぞれ点数をつけて評価、判断を行っています。
しかし、これらの数字はそれぞれの企業が持つ個人の情報をもとに算出されているため、詳しい計算方法は非公開です。
これに対してアメリカの場合は、クレジットカードの購買履歴だけでなく、各種のローンや公共料金の支払いなどの顧客情報が大手信用情報機関に集められていて、そのデータをもとに個人の「信用偏差値」が算出されます。
この信用偏差値がクレジットスコアで、それを使ってカード会社は審査を行っています。
クレジットカードの利用状況に応じて点数化するシステム
具体的には、過去のカードの使用履歴を精査することによって、返済履歴や借入残高や新規借入の有無、クレジットカードの種類などを点数化しています。
これらの点数を合計すると850点満点になり、点数に応じて以下のようにランク分けされます。
◾760点以上(プライム層)…ハイクラスのカードを作成可能
◾660~759点(一般層)…一般的なカードは作成可能
◾660点未満(サブプライム層)…信用力が劣り、カード作成に不利
このランクのいちばん下のサブプライム層に入ってしまう主な原因は、返済の遅れ、キャッシング支払いの滞納、繰り返し限度額ギリギリまでカードを使用するなど、クレジットカードに対する責任感のないルーズな行動です。
しかし、平均点は680~700点といわれ、比較的高い水準を保っており、常識的な範囲でカードを使用していれば、サブプライム層に入る危険性は高くありません。
それにしても、どうやって点数を上げることができるのでしょうか。これは意外と簡単です。クレジットカードを使うときに、ちょっとした点に注意するとスコアを上げられるといわれています。
たとえば、利用額を限度額の20~50%に抑えて、毎月必ず使い続けること、カードの所持数を2~3枚にして万遍なく使うこと、カードを1つ作ったら6カ月間は新しいカードを作らないことなどです。
要は、自分の経済力と金銭管理能力の両方をバランスよくアピールするということです。
日本人の感覚では、「クレジットスコアの点数を上げるためにはカードを使わなければいいのでは」と思うかもしれません。「カードを使うから返済の延滞が生じたりするのだから、使わなければそんなことを心配する必要もない」と。
しかし、アメリカではカードを使わないことがいちばんよくないのです。カードは毎月、確実に使わないといけない。ただし、使い方が問題で、返済が滞るほど高額なものを買い過ぎたり、突然カードを使わなくなったりするとマイナスとして査定されます。
つまりクレジットスコアは、金融資産や収入の多寡を見るのではなく、借りたお金をきちんと返しているかという返済能力を見るのです。これが重要なポイントです。
いつの間にか個人の信用評価の物差しに!
アメリカの場合、個人の信用を計る物差しとして、カード作成の審査以外でもクレジットスコアが利用されており、なんとクレジットスコアが商品化され、企業向けに販売されていると言います。
まさに、資本主義を極限まで推し進めたアメリカ社会ならではの現象です。
クレジットスコアを購入した金融機関は住宅ローンの審査などに利用して、自社で審査を行う労力を軽減し効率化を図っています。
一般企業はマーケティングに活用するため、富裕層にDMを出したいときはプライム層の名簿を、貧しい人にDMを出したいときはサブプライム層の名簿を購入するなどしています。
このようにクレジットスコアは企業にとってはターゲティングできる名簿として利用価値が高く、三桁の数字を見るだけで顧客の信用度がわかるのですから、業務の効率化にもつながります。
その一方で、大きな社会問題を引き起こす原因にもなっています。
もともと、クレジットスコアは単なるクレジットカード会社と個人の関係を表す数字のはずでしたが、いつの間にか個人の社会的な評価軸として機能し始めてしまったのです。
一種の社会インフラになっているといっていいのかもしれません。
その結果、就職や転居、結婚などにもこのスコアがかかわるようになり、スコアの善し悪しが生活に大きな影響を与えたり、格差を拡大させたりしています。
クレジットスコアの高いプライム層では銀行の預金金利が高くなり、ローン金利は低くなりますが、逆にサブプライム層では、預金金利が低くなり、リボルビングやローン金利が高くなるのです。
クレジットスコアの点数で、個人の金利が左右され、プライム層は蓄財するのも、借金をするのも有利になり、一方、サブプライム層にとっては、蓄財も借金もどちらも困難になるという不平等な社会になっています(サンダース候補が改革を訴えたのは、この不平等です)。
さらに、企業が使い方を間違えると、国の経済や社会全体を揺るがしかねません。すでにそうした危険性が現実となって現われています。
2008年に起こったリーマンショックの原因となったサブプライムローンの破綻は、このクレジットスコアが元凶でした。
住宅ローンの貸し先がなくなっていたにもかかわらず、クレジットスコアを利用して本来返済能力のないサブプライム層の貧困層にまで貸し付けるようになったために、最後にクラッシュを引き起こしたのです。
クレジットスコア社会がトランプ大統領を生んだ!
トランプ現象や、民主党の最左派として予備選で善戦したサンダース現象は、こうしたクレジットスコア社会の副産物といえるかもしれません。二人はプライム層とサブプライム層の対立を象徴しています。
不動産王といわれたトランプは、実は4回も破産しています。しかしそのたびに不死鳥のようによみがえって最上位のプライム層の頂点に上り詰めています。
文字通り、何度破産しても復活する返済能力が評価された、クレジットスコアを象徴するような人物です。
当初は共和党の泡沫候補と見られていたトランプは、その実績(?)を背景に「オレを見習ってアメリカンドリームを実現しろ!」と人々に呼びかけました。
一方、社会民主主義者を自称するサンダースは、拡大する格差社会に警鐘を鳴らし、富裕層を優遇する政策をあらためるべきだと訴え、学生を中心とした若者から熱い支持を受けました。
アメリカでは奨学金制度が充実しており、利用している学生は多いのですが、最近になって奨学金を借りる際の金利が2%から8%以上に大幅にアップしてしまい、気がついたら借金漬けになっているという学生が急増しています。サンダースはこうした状況に対して怒りの声をあげ、「貧困」こそ問題だと指摘したのです。
民主党は結局、政治エリートのクリントンを大統領候補に選びましたが、大方の予想を裏切ってトランプが大統領選挙に勝利しました。
トランプの勝利は、現状に不満を持つプライム層と中間層の支持が、既存の政治家やマスコミの分析を大きく上回っていたことを物語っています。
TPPを取り下げても日本はクレジットスコア社会になる!
トランプの経済政策は保護主義だといわれていますが、アメリカの経済政策が日本に大きな影響を与えることは言うまでもありません。
私はトランプ、クリントンのどちらが大統領になっても、そう遠くない将来に、日本でもクレジットスコアと同様なシステムが取り入れられるのではないかと考えていました。
日本の経済政策はアメリカの「年次改革要望書」に沿って行われることが多いと言われますが、これまでの「要望書」にクレジットスコアについての記載がありました。
そのため、企業が越境しやすい環境が整うTPPが施行されれば、日本での導入が一気に現実味を増すと考えてきました。
すでに現在ソフトバンクがみずほ銀行と組んで、携帯電話の名簿を使ってクレジットスコアの集計を行おうとしています。
トランプはTPPには反対だといっていました。大統領の座が決まった後もTPP反対の立場は変わっていません。
TPPは日本語で「環太平洋戦略経済連携協定」と言います。その究極の目的は、加盟国間の関税をゼロにして企業の活動をしやすくすることです。
その結果どうなるかというと、さまざまな商品やサービスを安く提供できるようになるので、消費者にとって大きなメリットがあるというのがTPP承認に動いた日本政府の言い分です。
しかし、果たして本当にそうでしょうか。
トランプ新大統領は前向き姿勢?
最近はあまり聞かれなくなりましたが、少し前にグローバリゼーションという言葉が喧伝されました。ヒト、モノ、カネ、情報が国境を越えて自由に動き回り、世界はより豊かになるという楽観的な考え方がその底流にありました。
しかしグローバリゼーションの実態は、米国流の資本主義を世界の国々に押しつけることでした。
ほんの一握りの人は確かに莫大な富を手に入れることができるようになりましたが、より深刻な貧困と格差の拡大をもたらしたのです。
実はTPPの本質も同様で、アメリカのやり方を加盟国に強制するものです。日本の農業は壊滅的な打撃を受け、世界に冠たる国民皆保険制度も無傷では済まないでしょう。
多くの産業資本がアメリカ金融資本の格好のターゲットになります。少し大げさな言い方をすれば、日本をアメリカに売り渡すことにほかなりません。
おそらくトランプはTPPを拒否するものの、日本とは二国間協定を結び、米国資本主義のために便宜を図ると考えられます。
この二国間協定は、実はTPP以上に曲者といわれています。アジア諸国の意向を考慮する必要もなく、直接日本に米国の政策を押しつけることができるからです。
その交渉の席で、トランプは、日本の自動車産業には厳しく対峙するでしょうが、クレジットスコアに関しては例外的な扱いをするでしょう。
日本社会を米国流の資本主義に塗り替えるためにも、その基本となるクレジットスコアには好意的な姿勢をみせるのではないかと思われます。
TPPがなくなりそうだからといって、クレジットスコアも一緒になくなるわけではありません。トランプのような怪物を生み出し、社会を格差拡大へと駆り立てるクレジットスコアに対しては警戒してもしすぎることはないでしょう。
※本記事は、『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2016年11月15日号の抜粋です。
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