さすがトヨタ。キャッシュレス決済に参戦で、日本全国の老若男女から現金を奪う勢い/岩田昭男
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PayPayでも楽天Payでもなく、あの「トヨタ」がキャッシュレスを過疎地域も含む日本全国に広める可能性が出てきた。すでに動き出したその戦略について解説したい。
トヨタとキャッシュレスの深い関係
トヨタというと「キャッシュレスとは無縁」と思っている人が多いだろう。しかし実際は、自動車販売で関係が深い。
特に1990年代に発行したトヨタカード(後のTSキュービックカード)は、日本でも初めてといってよいほど早く店舗の垣根を越えてポイントが貯まるスキームを作ったという点で、画期的であった(それ以来、日本人はポイント集めに熱中するようになる)。
あいにくこのところトヨタは、キャッシュレスについては新しい動きを見せていなかった。
しかし、同社の豊田章男社長は常々、車が売れなくなっている中で、「トヨタは車を作って売るだけでなく、『移動』に関わるあらゆるサービスを提供する『モビリティーカンパニー』への転換を目指す」と宣言している。
自動運転の実用化が近いこともあって、キャッシュレスの世界とどう関わっていくのかに注目が集まっていた。
ひっそり始まった「トヨタウォレット」
そんな折、11月18日のLINEとヤフーの経営統合の発表が日本中を揺るがしたが、その翌日に「トヨタウォレット」という新しいサービスが出るという報道が目を引いた。これはスマホにダウンロードして使うトヨタ専用の決済ウォレットといえるもの。
最初はiOS(アップル)対応からサービスを開始するとのことだったが、不思議なことに、騒いでいるのはウォレットに載る予定の三井住友銀行やオリガミペイ、銀行ペイといった決済事業者やベンダーなどだけだった。
>>トヨタの決済アプリ | TOYOTA Wallet
肝心のトヨタ自動車がまったく何の発表もしなかったので、「誰が」「何のために」、このデバイスを使ったらいいのかがわからず、不満が残った。
どうやらLINEとヤフーの動きに危機感を持ったベンダー関係者がリークしてしまったのではないかとみられる。
しかし、それから数日して謎が解けた。「移動する」人たちのためのルート検索アプリ『マイルート(my route)』の運用開始がトヨタ側から発表されたからだ。
多様な移動手段でルート検索、乗車予約や決済が可能なアプリ「マイルート」
これが本命かと、その時にピンと来た。それは豊田章男社長の渾身の作品といえた。
機能的にも斬新なアイディアが随所に盛り込まれており、きたるべき未来がそこに投影されているように思えた。これで私もやっと安心できた。
『マイルート』は「トヨタウォレット」と連動させて使うアプリであり、ウォレットが決済インフラであるならば、アプリはソフトウェアに当たる。2つは一体化して効果的に利用できるのだ。
電車(九州新幹線を含む)、バス(高速バスを含む)、タクシー、レンタカー、カーシェアなど多様な移動手段を組み合わせて目的地までの最適ルートを検索したり、乗車予約や決済もできる。
すでに昨年11月から福岡市でトヨタ自動車と西日本鉄道(西鉄)が実証実験を行い、今年11月28日からはJR九州を含めて福岡市に加え北九州市でも本格運用に入った。
実験中はアプリは無料で提供され、ダウンロード数が3万を超えたので、トヨタも成功と判断して本格運用に入ったといわれる。
また、日本人ばかりでなく、訪日外国人も対象となっており、言語も日本語、英語、中国語、韓国語の4カ国語で対応している。
その他にも、 『マイルート』は、ルート検索だけでなく、周辺のイベント情報やグルメ情報、さらに観光地に関する情報も発信する。
>>my route[マイルート] 移動をもっと自由に、もっと楽しく
欧米ではこのようなアプリは、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)と呼ばれて人気になっており、EUを旅行する人たちがこのアプリを持って国境をまたいで行き来しているといわれている。
ほかの路線検索アプリとどう違うのか?
『マイルート』が他の路線検索アプリと違うのは、JRやバス会社から常時情報が入ってくるので、バスの運行に遅れが出ているとすぐに最適の乗り物、例えば電車への乗り換えを知らせてくれるところである。また決済の機能は「トヨタウォレット」が担う。
三井住友銀行、三井住友カード、iD、他にトヨタファイナンス、QRコードではオリガミペイ、銀行ペイなどが入っており、前払い、即時払い、後払いのどのタイミングでも支払いができる。
利用者は、銀行口座を登録したり、クレジットカードを登録すれば、交通手段の決済も可能だ(現在は一部のみ)。
これまでキャッシュレスの中で交通系電子マネーがはよく知られていたものの、実際使われているのはSuica、PASMO、ICOCAくらいで、他の電子マネーはあまり使われていなかった。
それは鉄道網、つまりは乗客数に比例しているわけで、やはり大都市中心のツールだったといえるだろう。
それに対してトヨタの『マイルート』は、大都市圏以外の地域でもまんべんなくカバーできる可能性がある。鉄道の発達していない日本海側のひなびた地域や新幹線の通っていない四国地域などが対象となるだろう。
こうしたキャッシュレス後進地域にどんどん入っていけば、日本のキャッシュレス比率は格段に向上するに違いない。
トヨタ式でキャッシュレスが日本の隅々まで行き渡る?
しかし、全国に広めるためには1つだけ不満がある。『マイルート』の仕組みは、基本的にはスマホが前提となっていて、スマホのリテラシーの高さも要求される。そうなると過疎地に限らず高齢者たちにはハードルが高くなって参加できないのではないかと心配だ。
そこのところをトヨタの力で何とかして欲しい。
例えば「ラクラクホン」のような高齢者向けのスマホを開発してくれないだろうか。大きなボタンを1回か2回押しただけの簡単操作でタクシーを呼んだり、決済できたりすればこんなによいことはない。
特に毎週のように遠くの病院に通わなければならないおじいさんや、遠いスーパーに買い出しに行くおばあさんが楽に扱えるようなスマホが欲しいのだ。
そうなれば、SuicaやPASMOのない、全国のキャッシュレス後進地域の人々に朗報となるだろう。
キャッシュレス戦争はやがて「MaaS事業」戦争へ
さらにトヨタはソフトバンクと「モネテクノロジー」を立ち上げ、MaaS事業をスタートしようとしている。こちらには420社(10月末)が参加している。そこと合流すればトヨタの構想は一気に全国規模になり、LINEPay、PayPayを巻き込んでQRコード陣営全体の展開となるだろう。
一方で、楽天・Suica陣営の動きにも注目である。ポイントサービスが苦手だったSuicaを楽天がポイント面で助ける程度の計画であれば何の問題もないが、楽天とSuicaが協力して東日本でMaaSネットワークを作ろうとし始めたら、これは全面的対決になるだろう。
JRグループでも、JR東海はもちろんトヨタに付くから西軍だが、JR東日本とJR北海道が加わる楽天とSuica陣営は東軍ということになろうか。
東西に分かれての関ヶ原の戦いが勃発しそうであり、これはこれで心配である。
主戦場は、Suicaとトヨタの交通系分野へ
こうした無駄を避けるためにも、トヨタとJR東日本が早々に手を結び、共同して市場を広げていくのが一番よい方法ではないだろうか。いずれにしろ、これからは企業第一の儲け主義ではなく、社会の課題を解決するのが第一といった考え方が広がることを望みたいものである。
QRコード決済は、キャッシュレスの新星として期待を集めて登場した。これまでは、ポイント還元や支払い方法だけを取り上げる論評が多かった。
ところが、実際にQRコード決済が呼び込んだのは、2020年からの大企業による新事業の数々である。
Yahoo!が第3極のプラットフォーマーを宣言し、楽天がSuicaとのポイント事業の展開を謳い、そしてトヨタが日本版MaaSの展開を宣言した。そして今度の主戦場は、どうやらSuicaとトヨタの交通系分野になりそうな予感がする。
西と東に分かれて日本版MaaSがどう展開するのか。注意深く見守っていきたい。
岩田 昭男
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