「PayPay」は日本市場で天下を取るか?/岩田昭男
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日本にもQRコード決済の大波が来ている。この秋から参戦する「PayPay(ソフトバンクとヤフーの合弁会社)」は戦況を一変させるのか? 今後について解説したい。
狙いは現金商売の個人商店? 手数料・初期費用0円で攻勢をかける
実感を伴ってきた「キャッシュレス化」の進展
私が事務所を置いている東京・高田馬場では、今年の4月に喫茶店ルノアールやプロントなどの中堅チェーン店がクレジットカード+非接触ICの共用端末を一斉に導入したことで、キャッシュレス化が進んだ。これまで打ち合わせでルノアールを使うときは、事前に現金を用意しなければならなかったが、これからはそうした面倒がなくなった。それまではクレジットカードやSuicaが使えるのはコンビニとガストなどのファミレスに限られていたので、財布の中には常に千円札や1万円札を何枚か入れていた。ATMにも2日に1度は通っていた。それが今ではATMに通うのは週1回になった。
今までは買い物や食事の場面において、キャッシュレスと現金払いの割合がほぼ半々だった。それが、キャッシュレスでの支払いが3分の2になり、現金が3分の1に減った。おかげで毎日の暮らしで悩みの種だったお釣りや小銭の処理に困ることがなくなった。
ラーメン屋を筆頭に「現金主義」を貫くお店は多い
しかし、まだ十分ではない。まだまだ「カードお断り(現金のみ)」という店が多い。商店街にある個人商店や飲み屋、ラーメン屋などは依然として現金のみの商売をしている。高田馬場の栄通りや早稲田通り沿いにたくさんあるラーメン店は、軒並みカードお断りだ。どのお店も手数料を取られるのを嫌がっているのだ。手数料を3~4%とられてその上、来年に消費税が10%になったら儲けなんか吹っ飛んでしまう。そうした個人商店主や中小零細業者にとって、キャッシュレス化はどこか遠い国の出来事でしかない。日本がキャッシュレス比率を高めるためには、こうした店がキャッシュレス化する必要がある。
キャッシュレス先進国の中国では、屋台から物乞いまでQRコードを置いている。そして、QRコードが印刷された紙ぺら1枚とスマホを使った決済がいたるところで行われている。日本でもQRコード決済がどこまで普及するかが、キャッシュレスの行方を占うカギになる。
孫正義社長肝いりのQRコード決済サービス「ペイペイ」
先日、そのQRコードを使った新たなスマホ決済サービス「ペイペイ(PayPay)」の取材に行った。ペイペイ(PayPay株式会社)はヤフーとソフトバンクの合弁会社だ。今年の6月に設立されたばかりで、ペイペイを使った店頭でのスマホ決済サービスを今秋から開始する予定。現在は全国に営業をかけ、加盟店開拓の真っ最中だ。何しろ、ソフトバンクグループ総帥の孫正義社長が陣頭指揮をとってQRコード決済事業に取り組むというのだから、同社の今後の動向が注目される。
ところで、ペイペイという名称は日本人には少し滑稽な感じがするが、シャンシャンやシンシンなどパンダの名前を思い浮かべていただくとよくわかるように、中国では同じ音を繰り返す言葉が多い。
ペイペイは設立直後の7月に、インド最大のスマホ決済サービスの「Paytm」と提携し、今回のスマホ決済サービスの準備を進めてきた。さらに、9月に入ってアリペイとの連携を発表。今後、ペイペイの加盟店でアリペイによるQRコード決済が可能になる。
これによって、ペイペイの加盟店は中国人をはじめとするインバウンド消費の取り込みが見込める。さらにいえば、アリペイを使える加盟店を開拓することがペイペイの第一の目的なのだ。ペイペイという名称にしたのは中国人観光客に親近感を持ってもらうためでは?と考えるのは、うがちすぎだろうか。
手数料・初期投資・通信環境など「すべて不要」のペイペイ
スマホQRコード(またはバーコード)決済には、ユーザー(消費者)がコードを提示して店がスキャンするタイプ(ストアスキャン型)と、店(販売業者)がコードを提示してユーザーがスキャンする2つのタイプ(ユーザースキャン型)がある。このうち前者のタイプは、大手販売チェーンがPOSレジを設置し、クレジットカードや電子マネーを使ってすでに行っていた。そのため新規参入組にとってはあまりうまみがない。そこでペイペイのターゲットは、後者の店舗がQRコードを提示するユーザースキャン型となった。
こちらは、ペイペイが用意したQRコードが印刷された紙を店頭に置いておけばいいだけだから、読み取り端末が不要で初期導入費用がほとんどかからない。特別な通信環境がなくても利用できる。しかも、ユーザースキャン型の決済手数料は3年間無料だ。
このように導入の障壁がきわめて低いことが従来のスマホ決済との大きな違いだ。さらに、クレジットカードの場合は15日~30日後という入金サイトが、ペイペイであれば2営業日後というのも店にとっては大きい(1万円以上)。
なぜ手数料を無料にできるのかといえば、ヤフー広告など他で稼げる手段があることに加えて、決済データをヤフーのリスティング広告などに利用して利益につなげることができるからだ。
ストアスキャン型は手数料を取る。POSレジを導入している大手販売チェーンは、手数料を払うのは当然だという考え方もあり、手数料の支払いを負担に感じていない。逆にいえば、POSレジを導入していないような小規模の現金商売の個人商店や屋台(移動店舗)が、ペイペイの加盟店開拓の対象になるということだ。
ターゲットは現金商売の個人商店
具体的には、ラーメン店や立ち食いソバ屋、居酒屋、クリーニング店などで、いわばキャッシュレスの最後に残った秘境だ。ペイペイによれば、こうした〝秘境〟は全国に数百万店舗もあり、ここを「主戦場」にして、しらみつぶしに営業攻勢をかけていく方針だという。そしていま、何千人もの営業マンが全国に散らばって営業活動を行っている。「われわれが狙うのはまさに現金払いの店。そこを攻めないとユーザーが増えない。ニワトリが先か卵が先かの問題だが、われわれはまず加盟店を増やすことを取った。そのための手数料ゼロであり、初期投資ゼロ。この秋のサービス開始に向けてどれだけ多くの店を獲得できるかが勝負」とペイペイは意気込む。
加盟店を開拓さえすれば、ヤフーとソフトバンクグループの膨大な利用者が潜在的な顧客として期待できる。「Yahoo!JAPAN ID」を持っている4000万人に、ソフトバンク、ワイモバイルのスマホユーザーなどを合わせると膨大な数になるとペイペイはいう。したがって、ペイペイを使える店が増えれば、利用者はいくらでも増えると強気だ。
これまで「Yahoo!ウォレット」にあったスマホ決済機能は終了し、Yahoo!JAPAN IDと連携させてYahoo!JAPANアプリでペイペイを利用できるようにする、というのが今後のスケジュールである(ペイペイ専用アプリも用意される)。
QRコード決済の普及は地方から!?
現金大国の日本でも、キャッシュレス化が徐々に進んではいる。そのなかでキャッシュレスの少額決済の手段としては、Suicaやnanacoといった電子マネーが圧倒的に強い。最大の理由は、読み取り機にかざすだけで、面倒な手間が一切かからないことだ。QRコード決済も電子マネーのこの利便性にはかなわない。まずアプリを起動して、利用金額を入力したりと、電子マネーに比べるとQRコード決済は手間がかかる。
けれども、これまで現金決済オンリーで営業してきた小規模な小売店舗であれば、初めてのキャッシュレス決済導入だから、電子マネーとの比較にはならない。だから一気に導入が進む可能性がある。
ペイペイの言い方を借りれば、いま現金決済にストレスを感じている店舗が狙い目であり、都市部ではなく「田舎」が加盟店開拓のターゲットだ。キャッチフレーズ的にいえば、「キャッシュレスは地方から始まる」だ。
地方では、コンビニを除けば電子マネーやクレジットカードが使える店はほとんどない。キャッシュレス環境は整っていない。しかし、ほとんど現金払いだからこそ、今後は地方のほうがQRコードの普及が早くなるのではないかというのがペイペイの見方だ。
実際に中国やインドでは「ATMが近くになく、現金を出すのが面倒だ」という田舎から、QRコード決済がどんどん増えていったという。それなら日本もQRコード決済によるキャッシュレス化が地方から広がっていくのではないだろうか。
QRコード決済の勝利者は誰か?
現在、QRコード、もしくはバーコードを使ったキャッシュレス決済サービスを提供しているのは、LINEペイ、楽天ペイ、ドコモのd払い、オリガミペイ、アマゾンペイで、それにペイペイが加わることになる。それぞれが技術力や企画力を競って利用者の獲得にしのぎを削ることになる。では、このなかで一番伸びる可能性があるのはどの決済サービスだろうか。
アマゾンで買い物をして「Amazonアカウント」を持っている人なら、アマゾンペイを利用するためにクレジットカード番号などをあらためて入力する必要がなく、面倒な手続きがほとんどいらない。そのためアマゾンペイはユーザーからの支持を得やすいのではないかという見方ができる。
ところがアマゾンペイにひとつ大きな欠点がある。それはアマゾンペイ専用タブレット端末(「日本ペイ」の決済サービス)が必要だということ。アマゾンペイの加盟店になるとアマゾンからレンタルでそのタブレットを用意しなければならない。これに応じる店舗はそれほど多くないだろうというのが、業界関係者の見立てだ。アマゾンペイの加盟店手数料は2020年まで無料となっているが、現時点で加盟店の数は他の決済サービスに比べて極端に少なく、今後も大きく加盟店が増えることはないのではないか。
それでも、3700万人といわれるアマゾンユーザーの存在は決して無視できない。ペイペイも前述したようにヤフーユーザー4000万人を抱えており、前記したスマホ決済サービス各社が抱える消費者が、脱・現金化を計れば、キャッシュレスの流れが一気に加速する。
前払いと後払いのいずれも可能なペイペイ
QRコードを使った決済サービスを行っているのは現在5社で、それにペイペイが加わるわけだが、それぞれの特徴を簡単に見ていくと次のようになる。まず、支払い方法について整理したい。
LINEペイの場合、銀行口座からオートチャージとプリペイドカード、さらにクイックペイでの支払いとなるのですべて前払い。
楽天ペイは、クレジットカードが主なので後払い(ただし、VISAデビットも使える)。
ドコモのd払いは、携帯電話料金との合算払いとクレジットカードで後払い。
オリガミペイは、クレジットカードとデビットカードなので、後払いと即時払いとなる。
アマゾンペイは、クレジットカードだけなので後払いだ。
最後にペイペイだが、銀行口座からチャージしての支払いと、クレジットカード払いができるので、前払いと後払いができる。これが他社との違いで優位性のひとつだとペイペイは強調している。コードの読み取り方式については、d払いとアマゾンペイの2つは先に説明したストアスキャン型。他はすべてユーザースキャン型とストアスキャン型の両方のタイプに対応する。
QRコードとクレジットカード、電子マネーが共存する?
QRコード(バーコード)決済と非接触ICカード決済とを比べると、決済スピードという点では「非接触ICカード」のほうが断然優れている。ただし、読み取り端末導入の初期費用が必要。もうひとつ、3.5%程度の加盟店手数料を支払わなければならない。これに対して「QRコード決済」のほうは、ペイペイやLINEペイ(2018年8月から3年間)、アマゾンペイなど手数料が無料という強みがある一方で、アプリを起動する手間がかかるという弱点がある。QRコードが乱立するという恐れもあって、コードの規格を統一して使いやすくする、市場原理に任せて強いものに収斂されるのを待つ、など意見が分かれる。これをどうするかも今後の課題だ。
考えられるシナリオは、QRコード決済と非接触ICカード決済の2つがうまく棲み分けして共存していくだろうということだ。
クレジットカードを頂点にして、大手や中堅を含めた販売チェーンはクレジットカードと電子マネーが使える端末を設置してキャッシュレス化を進める。そうした店とは一線を画す形で、個人営業の立ち食いソバやラーメン店などの現金払いの店が、QRコード決済を取り入れていく。そうなれば、ユーザーは完全キャッシュレス化を満喫できるだろう。
やっぱり現金は必要か
日本政府は、(1)インバウンド消費拡大による経済の活性化、(2)現金のハンドリングコストの削減、(3)お金の流れの捕捉、などを主な目的にして、キャッシュレス化を促し、経済界もそれに呼応している。QRコード決済が日本全国隅々まで普及し、現金が要らない世界が出現すれば、たしかに利便性は高まるだろう。
しかし、折しも北海道大地震ではブラックアウト(大停電)が起こり、道民の生活に大きな支障が出た。コンビニではクレジットカードや電子マネーが使えなくなり、ATMも止まってしまい現金を一切引き出せなくなってしまった。
あらためて現金の重要性・必要性を認識させられたという方も多かったのではないだろうか
日本の紙幣は芸術品といってもいいくらい美しい。自分の資産を国や企業にすべて把握されるのは我慢ならない、と考える人も少なくない。
そこで、キャッシュレス化を徹底することが本当にいいことなのか、キャッシュレス比率を90%、100%にすれば利便性だけではなくリスクも生じるのではないかという疑念が生まれている。
そんなことを考えると、キャッシュレス化にことさら前のめりになるのではなく、災害に備えて非常用持出し袋に当座困らないくらいの現金を入れておく配慮をするのも、賢い庶民の知恵ではないだろうか。
岩田 昭男
>>店舗経営の方、個人事業主の方はこちら→初期導入費・決済手数料・入金手数料が0円!PayPay
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