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2016年11月15日 プリペイド/デ ビットカード

デビットカードがようやく普及しそうなワケ/岩田昭男

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 店舗で買い物をした時、銀行の預金口座から代金が即時に引き落とされる「デビットカード」の利用者が、このところ急増している。決済・金融コンサルティング会社インフキュリオンが今年3月、2万人を対象に実施した「決済動向調査」によると、デビットカードを利用している人の割合は、2015年の3.7%から16年には6.1%へと増えている。消費生活ジャーナリストの岩田昭男氏が、デビットカードの利用者増加の理由や、賢い利用法などについて解説する。


買い物で即時に口座から引き落とし


 財布からお札を出したり、小銭をもらう手間が省けたりするので、カードで買い物をする若者が増えている。それもクレジットカードでなく、デビットカードを使うケースが急増しているというから驚く。

 デビットカードとは、「即時払いのカード」のことだ。英語の「デビット(Debit)」とは「引き落とし」の意味。「買い物の際に、店頭の端末にカードを通し、暗証番号(またはサイン)で本人確認をして決済をする。クレジットカードのように1か月後の引き落としまで待つ必要はなく、すぐに口座から引き落とされるので、お金の使い過ぎが防げる。

 今、注目を浴びているのは、三菱UFJ銀行や三井住友銀行などメガバンクがクレジットカードの国際ブランドと提携して発行する「ブランド・デビット」だ。

 三菱UFJ銀行は、VISAと提携して「三菱UFJ-VISAデビット」を2013年から発行している。年会費は無料。また、毎月の利用金額の0.2%を自動でキャッシュバック(返金)する。


 一方、三井住友銀行も先月、VISAと提携して「SMBCデビットカード」を発行した。こちらは常時、年会費無料で、利用金額の0.25%のキャッシュバックがある。

 これらブランド・デビットの良さは、国際ブランドであるVISAのネットワークの仕組みをそのまま使えるので、国内・海外を問わず、VISAのステッカーが貼ってある店なら、どこでもクレジットカードと同じ要領で利用できる点にある。


先駆の「Jデビット」は利用者数低迷

 デビットカードは、いま始まったばかりのサービスではない。わが国には16年前からあった。郵便貯金(ゆうちょ)とみずほ銀行(旧・富士銀行)が中心となって日本デビットカード推進協議会を設立し、2000年に「Jデビット」という名称でサービスをスタートさせている。

jdebit
 こちらは主にNTTデータのインフラを使って、日本独自の仕組みを作り上げたのが特徴で、金融機関のキャッシュカードがそのままデビットカードとして使えた。国内のキャッシュカードの9割に当たる4億枚以上が利用できることになり、全国の銀行が参加して、オールジャパン体制で取り組んだ(三菱UFJ銀行など一部を除く)。

 しかし、逆風も強く、「すでにクレジットカードがあるのに、なぜデビットカードが必要なのか。買い物をするのに2種類のカードはいらない」という声がカード会社側から出たこともあって、苦戦した。

 特に、加盟店が国内約45万か所に限られ、海外で使えないことがJデビットの弱みとなった。24時間稼働のサービスではなく、金融機関によっては深夜、早朝は使えないといった制約もあった。さらに、店頭の端末でキャッシュカードの暗証番号を打たねばならないことが、個人情報漏えいに敏感な人たちに嫌われるという側面もあって、普及の足かせになった。

 Jデビットの年間決済額はそれでも05年には約8000億円まで達したものの、15年は約4300億円と、10年前の半分ほどに落ち込んでいる。

 さらに、最近はキャッシュレス化の波に乗って、Suica(スイカ)やnanaco(ナナコ)、楽天Edy(エディ)といった電子マネーが急伸し、若者の間では電子マネー決済が一般的になっている。これがJデビットの強力なライバルとなっているのだ。
 加盟店の中には、利用者が減ったために、Jデビット用の端末機をしまい込んでしまったところもある。

 そんな時に登場したのが、先に紹介した三菱UFJ銀行や三井住友銀行などのメガバンク主導のブランド・デビットであった。どちらも国際ブランド・VISAと提携しており、そのインフラ(通信回線から端末機まで)を丸ごと活用することがメリットになっている。

地方銀行も続々とサービス開始

 デビットカードとクレジットカードの違いは、引き落としのタイミングが、「即時」か「1か月後」かにある。決済インフラを所有・管理している国際ブランドなら、決済のタイミングを自在に操れるので、利用者の要望に応じて、クレジットとして処理することも、デビットとして処理することも意のままなのだ。

 特に、VISAといえば、クレジットカード業界の盟主であり、そのネットワークは世界中に広がり、約3900万店の加盟店がある。その店との取引を24時間いつでも行え、引き落としのタイミングを決められるのだから、利用者にとっては心強い。その使い勝手は、Jデビットをはるかに凌しのぐといえる。

 現在ではVISAのほか、同じく国際ブランドの「マスターカード」や「JCB」もこぞってデビットカードのビジネスに乗り出している(マスターカードは海外では盛んに発行しているが、日本には未上陸)。

 こうした結果、地方銀行を含めた銀行勢力は、最近はいずれもがJデビット方式ではなく、ブランド・デビットを採用している。

 地銀で特に早かったのは、スルガ銀行だった。06年にVISAと提携して、早々とブランド・デビットを導入している。それから楽天銀行、りそな銀行などが続いた。りそな銀行によると、15年度のデビットカードの決済金額は前年度より50%も増加したという。

 昨年からは日本発の国際ブランド・JCBがデビットカードの取り扱いを始め、愛媛銀行、千葉銀行、福岡銀行などと提携している。

“借金嫌い”の日本人にマッチ

 ここに来て、ブランド・デビットが注目を集めているのはやはり、そのメリットの多さだろう。クレジットカードと比較しても、強みはたくさんある。

 まず、借金にならない点だ。クレジットカードは後払いのために、引き落としの期日が来るまでは代金をカード会社から借金していることになる。一方、デビットカードは即時払いのために銀行からお金を借りることはない。この辺は、潔癖で借金嫌いが多い日本人には受ける。

 審査なしで持てるのもデビットカードの良さだ。若年層(15歳から利用可というところが多い)から持てるので、クレジットカードを使えるようになる前の高校生が、カードの使い方をトレーニングするのにもよい。

 銀行側にすると、若者がスイカなどでカードになじんできているので、デビットカードでこの際、将来の顧客の囲い込みに本腰を入れ出したと言えるだろう。今度こそ、デビットカードに期待をかけて、推進しようとしているのだ。

少額決済はデビット、高額ならクレジット

 一般人の基本的な使い方としては、デビットカードとクレジットカードを2枚、上手に使い分けることをおすすめする。少額の商品はデビットカードで支払い、高額の買い物をする時には分割払いもできるクレジットカードを使うというやり方だ。

 また、給与生活者なら絶対に覚えておきたい2枚使いとして、借金を最低限に抑えながら、預金口座の残高不足を避ける方法がある。まず給料をもらった後、口座の残金に余裕のある時には、デビットカードを活用して口座からの引き落としにする。一方、口座にお金が少なくなる給料日前には、クレジットカードを使って支払いを延ばすというやり方をする。こうすれば、クレジットカードの借金を減らしながら、口座の残高を一定額残せるので、クレジットカード払いの「うっかり延滞」を防げる。これは、デビットカードとクレジットカードの2枚をうまく使う際の基本技法だ。

 また、即時決済というデビットカードの特徴を生かせば、実態に即した家計簿を作成することもできる。クレジットカードは後払いになるために、現在の家計の状況を正確に反映しているとは言い難い。だが、デビットカードを使えば即時に反映できるから、実態に即した家計簿を作ることができる。さらに、預金口座の出入金などをもとに家計簿を自動作成してくれるアプリ「マネーツリー」を使えば手間もほとんどかからない。

クレジット新規契約できないシニアにも

 シニアの方にもデビットカードはぴったりだ。それを私の体験からお話ししたい。

 私はこれまで、全国の消費生活センターでクレジットカードやデビットカード、電子マネーなどの使い方について指導してきた。2年ほど前、千葉県佐倉市の消費生活センターで、クレジットカードやデビットカードの話をした時のことだ。その講演の終わりに質疑応答の時間があり、70歳過ぎのご婦人からの質問が出た。

 彼女は70歳になったのを機に、持っていたクレジットカードをすべて解約したという。生活をシンプルにしようとしたのだ。ところが、いざクレジットカードを持たなくなると、それまでは当たり前にできていたことができなくなり、困ってしまったのだという。

 たとえば、楽天市場で化粧品を購入していたが、クレジットカードがなくなったため、カード払いができなくなってしまった。しかたなく代引きに変えたが、これが不便だった。配達される時間に自宅にいないと化粧品を受け取れない。一人暮らしで外出がちのご婦人にとっては相当なストレスとなった。

 他の買い物でも同じだ。何げなくクレジットカードで買い物をしていたので、カードがなくなると、急に現金が必要になった時には、オロオロするばかりだった。常にサイフにお札を入れておかなければいけない。そのために毎日のようにATMに行くようになり、これも重荷になっている。

 今さらながら、クレジットカードの大切さを知ったわけだが、再びカードを持ちたいと思って申し込んでみるが、なかなか審査を通らない。70歳を過ぎた年金暮らしのおばあさんに、新しいクレジットカードを発行してくれるわけがないのだ。しかし、この日の私の話を聞いて、審査が不要で、クレジットカードと同じ数の加盟店を使え、ネットショッピングもできるのだから、デビットカードは自分にぴったりだと思い、希望が湧いてきたと感謝してくれたのだった。

 ここで述べたように、クレジットカードの場合は、もし定年後に解約したら、2度と持つのは難しいと言える。と言うのもカード会社は、年金生活に入った人の審査はより慎重になる傾向があるからだ。しかし、デビットカードなら口座を作れば誰でも簡単に持てる。

 ただ、注意すべき点もある。カード情報が第三者に不正利用された場合だ。クレジットカードだと、口座からお金が引き落とされるまでに1か月程度の時間があるので、不正利用が分かった時点でカード会社に通報すれば、支払いをストップしてくれることもある。しかし、デビットカードは、不正利用であっても即座に引き落とされてしまうからだ。VISAデビットカードの場合は、クレジットカードと同じような補償はあるが、暗証番号の管理など厳しい条件が付くので、注意が必要だ。

レジで現金受け取れる「キャッシュアウト」実現も

 ところで、デビットカードは今後どうなるのか。これまで述べてきたように結構便利なカードだから、一般の理解が深まれば確実に普及するだろう。それだけでない。これからは、さらに「使えるカード」になりそうなのだ。

 というのも、「キャッシュアウト」という新しいサービスが出てきそうだからだ。デビットカードで買い物をすると、一緒に現金をもらえるというサービスだ。もらえるといっても銀行からプレゼントされるわけではない。自分の預金口座から引き出したお金に過ぎないのだが、それでも手持ちの現金が足りない時に、わざわざATMまで足を運ばなくても済むから便利だ。

 たとえば、あるスーパーで食料品を2000円分買うとする。レジの店員にデビットカードを提示して5000円分の請求を出すと、2000円分の食料品を受け取るうえに、3000円の現金を渡してもらえる。この3000円は自分の口座から引き出したお金であって、スーパーのレジが銀行のATM代わりになって、店員がお金を渡してくれるのである。

 このキャッシュアウトの導入については現在、金融庁が審議中で、近々実現するとみられる。そうなれば、デビットカードの使い道がさらに広がる。デビットカードを巡る動きから当分、目が離せない。

※YOMIURI ONLINE 深読みチャンネル(2016年11月08日05時20分配信)



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