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2016年9月8日 O2O/スマホ

Suica一人勝ちの秘密① iPhoneにフェリカ搭載までの道のり

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ブルームバーグのすっぱ抜きで明らかになった「iPhoneのフェリカ搭載」。これでスイカは息を吹き返し世界戦略に乗り出すのか?

手軽で守備範囲の広いスイカ

07e0abb8c86cc87bda84b3bed8f6b191_sスイカは日本ではメジャーな電子マネーの1つで、交通系電子マネーと呼ばれます。
JR東日本が発行しており、基本は、電車に乗るために使うIC乗車券ですが、買い物する時にも使えます。

2001年に発行を開始して以来、今年で15年目を迎えました。現在、総発行枚数は5704万枚に達し、利用可能店舗数は34万2600店を数えます。

このスイカが人気になっているのは、駅で切符を買う手間がはぶけて、改札にかざすとそのまま駅に入場できるといった手軽さからです。

これまでは駅の券売機まで行って目的地までの料金を確認したうえでキップを買うという手間がありましたが、スイカならそうした手間が一切かかりません。

もう一つは街中の店でも、タクシーでも、コインロッカーでも、利用できるその守備範囲の広さが受けているのです。とくに買い物でスイカが使えるようになったのは大きいと思います。全国のほぼすべてのコンビニで使えるようになったのですから、使い勝手が格段によくなっています。

最近になって、JR東日本だけでなく全国のJRにも乗れるようになってさらに便利になりました。

応答速度が速すぎて国際標準に洩れたフェリカ


このスイカの基本になっているのが非接触型ICカードの「FeliCa」(フェリカ)という規格です。非接触型ICカードとは、端末にカードを接触させずにかざすだけで情報のやりとりができるもので、NFC(近距離無線通信規格)と呼ばれ、その中に、タイプA、タイプB、タイプCなどのいくつかの異なる規格があります。

フェリカはこのうちのタイプCにあたります。ちなみにタイプAはオランダのフィリップ社が中心になって開発したもので、テレフォンカードなどに使われていました。タイプBは米モトローラ社などが開発したもので、世界中でさまざまなものに使われており、日本では住民基本台帳カードなどに採用されています。

フェリカはソニーが1990年代に開発したもので、他の規格には決して見劣りしない優れた技術でしたが、残念なのは、これが国内だけで通用する独自規格で国際標準規格としては長い間認められなかったことです。

国際標準規格とは、ISO(世界標準化機構)が国際標準として定めた規格のことです。先ほど述べたタイプAとタイプBはISO規格を得ましたが、フェリカはこの規格が取得できなかったのです。そのため、フェリカは日本だけで使われることになります。

フェリカを使うデバイスとしては、スイカのほかには、楽天Edy、nanaco、WAONなどの電子マネーや航空搭乗券、マンションの電子キーなどがあります。

ISO規格ではないもの、交通系電子マネーとしてのスイカの性能は図抜けており、改札の応答時間は0・2秒の速さで、世界一混雑する新宿駅のラッシュアワーでも十分余裕を持って対応できます。国内で使うぶんにはまったく問題がないので、ここまで伸びてきているのです。ところが、この優秀さが欧米の反発を買ったといえます。

スイカはスタートから15年、モバイルSuicaは10年に


スイカがスタートしたのは2001年11月。そのスイカが携帯電話に載ってモバイルSuicaとして使われだしたのが2006年。それから10年の年月が経ちました。

私が初めてモバイルSuicaを使ったのが山手線の目白の駅でした。仕事の関係で、目白のホテルに泊まったためでした。当時はまだドコモの携帯でした。それまではスイカのカードを使って電車を乗り降りしていたのですが、その時から携帯を自動改札機にかざして乗るようになったのです。
その頃からスイカの評判は良くて、首都圏に住む多くの人がスイカ(カード)を使っていました。ですから、一番乗りでモバイルSuicaを使ってやろうと勇んで駅に行ったのですが、誰もモバイルSuicaなんて使っていないのです。逆に、改札機に携帯を近づけているので怪訝な顔をされたくらいです。それからしばらくモバイルSuicaは伸び悩み、一部のマニアのような人しか使っていないという状況が続きました。

スマホになってからはGoogleのアンドロイド型には対応しましたが、アップルのiPhoneには採用されず、長い間見送られてきました。その理由はスティーブ・ジョブスの頃からiPhoneは世界標準で使われている技術でないと認めないという方針があったからです。

NFCとフェリカの違い


ここで非接触ICについてもう少し説明しましょう。端末にかざすだけで情報のやりとりができるのが非接触ICチップで、そのチップをNFCと呼びます。

フェリカもひろい意味でNFCに入ります。先ほど話したタイプAというのはメモリだけの簡素なもので、タイプBはメモリに加えてCPUも備えた本格的なものです。

フェリカはタイプCとされてきましたが、最近ではタイプFといわれています。そのタイプFは前述したようにISO規格から外されてきました。それは次のような理由からです。

NFCは主に一般の買い物に利用することを目的に作られました。そのため応答速度はそれほど早くありませんでしたが、セキュリティーは堅固なものでした。これに対してフェリカは最初からJRの鉄道のために作られた規格で、応答速度の速さを特に強調していました。東京駅、新宿駅などのラッシュアワーに対応するために速さを重視したからです。そのためセキュリティー面などが若干おろそかになっていたと指摘する関係者もいます。

さらに、スイカの加盟店、つまり店側からするとフェリカの手数料が高ことが欠点とされています。日本だけでしか使えないため量産ができず、割高になってしまうのです。

その結果NFCは世界標準として認められましたが、フェリカはいつまでも認められることがありませんでした(一説にはあまりに性能が良すぎるので、世界標準を決める欧米主体の審議会で阻害されて来たといわれています)。

そういう事情があって、スイカが登場してから15年が経つのですが国内ではもてはやされたこの電子マネーも日本から出ることはほとんどありませんでした。

ちなみに、JR東日本が5、6年前にある発表をしました。「日本の首都圏は世界のICカード先進地域になった」というものです。1000万人を優に超える人々が、毎日ICカードを使って暮らしているところはほかにどこもない、というのがその理由です。実際その通りです。JR東日本ではそのことをアピールするキャンペーンを行なったのですが、ほとんど注目されることはありませんでした。

「ガラパゴス」の代表として自虐的に扱われてきたスイカ


以上のような状況が長く続いたためか、日本の技術者たちは「ガラパゴス」という名前でスイカを軽んじるようになっていきました。特にひどかったのは、TPPに参
加して産業の基準が米国型にシフトすればいずれフェリカは日本から淘汰されるだろうという人たちがいたことです。

彼らがいうには、スイカは今のままでは将来がないので、NFCの規格で新しく作り直すべきだというものでした。これには私も少しカチンときました。い
くら国際標準に合わないものであっても国内では圧倒的な支持を得ているスイカです。うまく回っているのに、わざわざお金をかけて作り直さねばならない理由な
どありません。

そうした意見を発信して、一生懸命にスイカを擁護したのですが、私のような立場の人は少数派でした。いつの間にか、スイカは「ガラパゴス」で使えない規格というのが業界の専門家の多数になっていました。

そういう中で今回アップルがフェリカを採用すると表明したのは画期的なことだと思います。10年かけて私のいってきたことが現実になったのです。技術的な問題ではなく、やっかみといった人間の感情的な部分で使う使わないの判断がされてきたと思うと残念でなりません(この発表が今年のカードがらみのニュースのなかでいちばん大きなものであることは間違いありません)。

フェリカ採用に動いたアップル側の事情は?


タイプFはフェリカのためにつくられた規格で、業界団体が「来年の4月までには、主要なスマホにはタイプFを装備しなければならない」といいだしているのです。たいへんな変化です。

そうしたなかで、アップルは今回タイプFと呼ばれるフェリカを載せることに同意しました。その理由としては、スイカの優れた性能を無視できなくなったこともありますが、JR東日本の粘り強い説得が奏功したことがあります。水面下でJRは長年にわたって動いていたようです。

一方でアップル側の財政的な事情もありました。右肩上がりで来ていたiPhoneの業績がこのところ世界的に低迷をし始めたのです。

アップルにとって、日本のシェアは全体の11パーセントを占めており、最も有力な国のひとつとなっています。昨年の実績もプラスの伸びを見せていました。そんな国はほかにありません。

その国のメジャーな電子マネーを放っておくのは、互いにメリットにならないと考えたのでしょう。スイカを使えるようにすることがアップルにとってのマーケティングの最大の関心事となっていきました。そうした観点から今回ルールを破って日本限定という条件で、iPhoneとiウォッチにフェリカを載せることにしたのです。

いよいよiPhone7に載る


正式には2017年4月にグローバルな携帯電話には必ずタイプFを入れるようにという業界団体の取り決めがあり、アップルもそれに従う形をとるのですが前倒しして10月末に発売されるiPhone7から載ることになるといいます。

これまではモバイルSuicaはアンドロイド型だけでしたが、iPhoneにも乗るとなるとスイカをはじめとする電子マネーはスマホで使うものという認識が根付くでしょう。そうなればスイカは急速な普及を見せるはずです。

そこでアップルが期待しているのが、iPhoneの新しい利用者が増えること、またiPhoneからおサイフケータイ付きのiPhone7への乗り換えが増えて売り上げが増加することです。

JR東日本の狙いとオリンピック対応


一方JR東日本としてはモバイルSuicaの普及が本格化してさらにスイカが生活に根ざしたツールになってほしいと期待しています。

それ以上に期待されるのが2020年の東京オリンピックです。その頃にはフェリカが世界のiPhoneに入る予定ですから、訪日観光客がスイカを入れて来日すれば国内の交通乗車や買い物が便利に利用できると見ています。

そして成田空港に来た外国人観光客にスイカにチャージするように指導することを、行政は考えてもいるようです。また、加盟店を増やしオールジャパンで全国のさまざまな店舗で使えるようにする計画も進めています。

JR東日本としては「ガラパゴス」というイメージを払拭し、世界で使えるスイカに育てあげようと力を入れはじめました。いよいよスイカが世界で本来の力を発揮する時が来たようです。


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