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2018年8月13日 O2O/スマホ

ネットとリアルの戦い、リアルを攻略せよ/岩田昭男

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リアルが先か、ネットが先か~O2Oとオムニ戦略

学生時代の友人が地方で家業の手芸店を継いでいます。かなり大きな店で繁盛屋といわれるほど賑わっていました。ところが、五年前に一度経営危機がありました。ある日、突然、電話があって、「店の売り上げが落ちて困っている」と珍しく弱音を吐いたのです。若い女性客たちが商品の前に立って、スマホに値段をうちこみ、比較サイトでより安いところを探して買っていると言うのでした。これでは、彼のところは売り上げが立ちませんので、「このままだとつぶれてしまう」と嘆きました。

これはショールーミングと言うスマホに特化した買い方で、この頃、被害が深刻化していました。しかし、店としてはスマホを持ち込み禁止にするわけにもいかず、お手上げの状態でした。そのため、友人に「どうしたらいい」と聞かれても「様子を見るしかないな」と私は答えるしかありませんでした。スマホの登場が消費者の行動を大きく変えてしまったひとつの例です。


しかし、本当のところは、スマホと言うより当時、IT事業者が主張し始めたO2O戦略の影響の方が強かったように私は思っています。O2Oとは、オンライントゥーオフラインの略で、それまでネット中心に展開していたIT事業者が、自らの事業範囲を、リアル市場にも拡大しようとして掲げた戦略です。

IT事業者たちは、2000年頃からのネットショッピングのブームで、十分に稼ぎ、自信をつけたので、もっと外に出て儲けようと考えたからです。その取っかかりとして、スマホを使って、実店舗でショッピングをさせて、リアル市場での売上を伸ばそうとしたのです。

野村総合研究所の調べでは、2012年当時、インターネット市場の規模は8兆円だったのに対して、リアル市場はその14倍の110兆円もあるといわれており、それが手付かずの状態で残されていました。

この戦略をいい出したのはGoogle、Apple、Facebook、Amazonの世界4大IT企業でしたが、日本ではネット通販大手の楽天がいち早く反応しました。

楽天が目をつけたのは共通ポイント

楽天市場がオープンしたのは1997年。以来、手厚いポイントサービスと様々なキャンペーンで急速に業績を拡大しました。2005年には楽天カードを導入しポイントと連動させてお得感を演出し、さらに業績を伸ばしました。

2014年にはO2O路線を鮮明に打ち出し、その突破口として、楽天市場を活用して、スマホでの買い物を進めると共に、共通ポイントにも着目してそこに参入しました。共通ポイントとは業種を超えて貯まるポイントサービスのことで、利用者が生活導線に沿って買い物していけばポイントがたくさんたまるので評判は上々でした。

当時はTポイントとPontaが二強でしのぎを削っていましたが、誕生から日の浅い市場だったので、くみしやすいと楽天は三番手で「楽天Rポイント」として名乗りをあげました。

共通ポイントの歴史

ここで一旦、共通ポイントの歴史を振り返ってみましょう。Tポイントが登場したのが2002年。二番手のPontaが出たのが2010年で、その間8年のひらきがあったので、主なナショナルブランドはTポイントがほとんど囲い込んでしまいました。ファミリーマート、エネオス、ガスト、マルエツ、ANAなどそうそうたる企業が揃っています。その際も一業種一社という厳しい決まりを作り、グループ内の秩序を守ることを優先しました。

一方のPontaは出遅れ感がありましたが、三菱商事という強力な後ろ盾があったので、JAL、昭和シェル石油、ローソン、ケンタッキーフライドチキンなどTポイントに入るのを躊躇していた二番手企業がごっそり入ってきました。

したがって三番手で飛び込んだ楽天は、大変に苦戦しました。というのも、残った企業で大手といえるのは、大丸松坂屋百貨店と出光興産、さらにコンビニで第4位のサークルK・サンクスくらいだったからです。Tポイントの1業種1社というルールが徹底されていて、楽天とTポイントの両方に入る掛け持ちを許さない空気がありました。これに楽天側は反発しましたが、業界全体がTポイントのいい分に従ったために、枠組みを崩すことはできませんでした。

リアルの壁に囲まれて立ち往生した楽天

加盟店の開拓も思ったようには進みませんでした。ローラー営業は、ネット事業者たちが最も不得手な分野です。営業というのは、おなかいっぱいの人の口に無理やりパンを押し込むようなもので、嫌がられるのが当たり前でした。それが普通にできなければ営業とはいえません。しかし、その手の仕事は、最先端を行くネット企業の社員のプライドが許さなかったのです。

リアルの洗礼を受けて鍛えられた楽天

さらに、打撃になったのがサークルK・サンクスがファミリーマートに取り込まれたことでした。これから共通ポイントの拠点に育てようと思っていた矢先だったので楽天側のショックは大きかったといえます。その上扱う共通ポイントが全てファミリーマートのTポイントに変えられてしまったのも痛手でした。

楽天のリアル参入から4年が経って最近になってやっと楽天スーパーポイント(途中でRポイントから名称を変更)は共通ポイントとしての認知を受けたようです。しかし、リアルの壁は高くそびえていました。1業種1社の壁、サークルK・サンクスの脱落、加盟店営業の難しさなど、楽天は、リアルの逆風を真正面から受けて耐えて来ましたが、現実の厳しさを嫌というほど思い知らされたと思います。リアルの世界はネット程簡単にはいかないということを肝に銘じたことでしょう。しかし、楽天の優れた所は、それでもめげずに多角的にビジネスを展開し、仮想通貨などにも進出し金融部門では気を吐いています。おそらく、このリアルの洗礼を受けて、一回りも二回りも大きくなってリベンジを果たすことでしょう。

オムニチャンネルで独自路線を進めるリアル陣営

IT事業者の挫折を見てほっと胸を撫で下ろしているのがリアルな店舗を展開する流通事業者たちでしょう。IT事業者の侵攻が成功していたら、あの手芸店のように辛い思いをして、片端からその軍門に下ることになった可能性もあったからです。しかし、今回は何とかリアルの壁が防いでくれたので、業界全体には安堵感が広がっています。

しかし、これらの企業(既存の流通業者たち)は、すでにO2Oに対抗してオムニチャンネル戦略を展開しています。オムニチャンネルというのは、O2Oとは逆のやり方をいいますが、それだけではありません。IT事業者がネットからリアルに出てきたのに対し、こちらはリアルからネットに出て行こうとするのはもちろん、ネットからリアルの流れも含めた双方向のコミユニケーションを考えています。それがオムニチャンネルです(冒頭で紹介したショールーミングを防ぐ手だてとしてオムニは開発されたといわれています)。

代表的な採用企業がヨドバシカメラやセブン&アイ・ホールディングス、イオングループ、青山商事などです。最近動きが激しいのがセブン&アイグループでまずここから見ていきましょう。

現実路線に舵を切ったセブン&アイ・ホールディングス

同グループのサービスは、オムニ7といいます。これまではアマゾンに対抗できるような大規模なネット通販サイトの構築を考えていましたが、業績不振に加えて、経営者が変わったこともあり最近は方向転換し、リアル店舗を中心とした展開に改めています。イトーヨーカドーとセブンイレブンは6月からアプリを顧客に提供して、顧客ひとり一人との関係作りを急ぐ方針といいます。
量で攻め立てるAmazonなどのIT事業者のやり方を見ていて、小売り流通としての立場から別のオプションを提案しているといえます。IT事業者たちが軽視した「現実感」をより重視する方向に舵を切ったとみられています(現状はまだオムニ7のサイトを見るとまるでAmazonのポータルサイトのようですが、いずれ簡素なものになるでしょう)。

配送料無料と即時配達でアピール

その点でもうまくやっているのかヨドバシカメラではないでしょうか。ヨドバシ.comというサイトが有名ですが、ここは値引率の大きさと即日配送が中心といったところが人気になっています。ヨドバシカメラは自前で配送員を抱えてやっていますから、スピーディなのです。またリアル店舗と連携して対応してくれる点も評価できます。リアル店舗とネットが別々に存在するのではなく両者の融合を積極的にやっているのが高評価の理由です。その仲介をするのが電話ということになるでしょう。リアル店舗に電話をすると係員が親切にアドバイスしてくれます。それからネットで安く買うか、店舗に行ってもう少し説明を受けてから買うかを考えればよいのです。これはIT事業者では絶対やってくれないサービスです。セブン&アイ・ホールディングスとヨドバシカメラに共通するのはリアル感であり現実の強みです。ネット向けに特化するのではなく、リアル店舗の強みをそのまま生かして融合させて利用者のニーズに合わせようとしています。強い足腰を生かして、またコミユニケーション能力を制限することなく取り込むことで個人のニーズに応えている、これが成功の秘訣と思われます。

中国版ヨドバシカメラをみつけた

一方で、中国でも同じ傾向が出てきています。最大手のネット通販サイトであるアリババは、権威があって多くの人に利用されていますが、個人向けサービスからするといまひとつといわれています。それは、社員が、自分たちは情報サービス業者で、他とは違うと、お高くとまっているために、決して、現場に出て接客したり、アドバイスをすることはしません。そうした点で、限界が見えてきたというのです。

それに対して、最近急速に伸びているのが二番手のジンドン(JD.com)というネット通販です。ここは家電製品が人気になっていますが、常にリアル店舗と連携して良いものを探してくれるので評判が良いのです。今後はこちらの方が伸びていくとみられています。現実感のある方が伸びるといった点は、日本も中国も同じようです。そして、消費者の好みもどんどん変わり、厳しくなってきていることも付け加えなくてはなりません。

まとめ

米国でも同じ傾向がでてきました。これまでSNSの雄としてウエブ業界を牽引してきたフェイスブックが苦境にたたされているのが象徴的でしょう。きっかけは米国大統領選挙に関係しての個人情報の扱いが問題視されたことでしたが、ウエブを過信して、現場に出て利用者の声を集めるといったことはせず、利用者の苦情などに耳を貸さなかったために利用者の反感を買いました(ウエブに電話番号を載せないことを売りにしていました。クレーマー対策であると同時に経費削減を第一にしていたからです)。しかし、それは本当にアドバイスがほしい人にとっては冷酷な仕打ちとみられたでしょう。そのため、欧米の会員の中では、ファイスブックからの離脱が大きな話題になっています。つまりは、あまりにリアルを軽視し、無視したために、今回、大きなしっペ返しを受けているということでしょう。もっと目線を低くして本業に精を出せという教訓です。

消費者のことを本当に考えるのなら、ネットか店舗かではなくどちらもまんべんなく対応できる体制を作ることが先決です。ネットだけではなく、リアル店舗のネットワークを生かして商品を提供したり、店舗側もネットで予約を受け付けて商品を取り置きするなどのコラボ体制がきちんとできないと十分とはいえないでしょう。そうしたところが最も優れた流通業者となるのです。

最後に、手芸店の友人ですが、私のアドバイスにしたがって、途中からサイトを立ち上げて、地道に努力していたら、そちらのサイトが人気になって、実店舗の売り上げをサポートするほどになっているといいます。もうショールーミングに悩むこともなくなったと喜んでいました。経営も順調なので、私もうれしく思っています。

岩田 昭男

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